公文　別の仕事でこの辺りに行った際、滝原宮に寄ってみたところ、敷石の色の違いを目の当たりにして、すぐに写メを撮って山口さんに報告しました。これは庭園ではないけれど、同じ考えができると思ったからです。そうしたら「ぜひそれを撮りましょう」という話になり、一度東京に戻ってから、すぐに二人で行きました。

山口　これはとても衝撃的でした。何しろわかりやすいですよね、同じかたちの石なのに色が違うことで神様とそれ以外の領域を分けているんです。柵さえも立てずに。神様という特別な領域であるにもかかわらず、単に色で差をつけるというのがおもしろい。

公文　ここには御宮（おみや）が三つ並んでいます。真ん中が滝原の本宮で、順番にお参りするんです。道を突っ切ってもいいのに、なんとなく白い線があるから毎回鳥居まで戻ったりして。白と黒の敷石を意識すると、どうしてもそういうルートになってしまうんですよね。でも意外と神主さんは横切っていたり……。

最初にお参りに行ったときは敷石のことなんて意識していなかったんです。でも、最後の御宮をお参りしたあとに振り返ったら、道が白と黒になっていることに気づいた。意識しないとわからないことが潜んでいて、でも写真として切り出すとぐっとわかりやすくなる。

山口　伊勢神宮を中心としていくつか小さい御宮が点在していて、そのなかの一つが滝原宮です。この辺りに近づいていくと御宮の入口部分にはただならぬ雰囲気が漂っているんですよ。そこまでの道中も参道を塞ぐように大木が立っていて、公文さんは「これは変だ」と言っていましたね。僕はピンとこなかったんですけれど。

公文　僕は道の真ん中に大きな木があることが不思議で、山口さんにそのことを話しても、行きでは無視されたんですよ（笑）。

山口　僕は何より早く白と黒の敷石を見たかったので……。目的を果たしたこともあり、帰りはなるほどなと。

公文　伊勢神宮にもこうした参道がありますが、邪気が入らないようにしているのかなと想像してみたり。この木がこんなに大きくなるなんて、きっと誰も思いもよらなかったろうし、未だにこうして立っていることが不思議で。庭を管理している人は変わっているのに、大木は変わらないと。そういうことの方が自分には響きましたね。

山口　白と黒という微差で表された関係は、意識すれば見えてきますよね。この大木は、道にとっては邪魔な木が生えているというか、自然状態そのもの。これこそ目的が見えないというか、道に対しては非目的であり、すごく日本的なあり方だと感じました。ただ邪魔ならば価値があるとは思えないけど、重要なのはこれが美しいということです。

最終的に公文さんがセレクトした写真は、美しいと思える。質感や、あるいはあまりも唐突でも自然のあり方が綺麗な風景をつくっていて、『修学院離宮』の飛び出た雨樋（あまどい）と似たような感覚です。関係のない唐突な存在にもある種の調和を感じます。

徐々に僕らの「ふたり旅」の目的が変わっていきました。最初は借景。庭という対象は保持しながらも、「何かと何かが隣り合っている状態」に意識が向いていって、さらにディテールへ。最終的に庭ではないところに行き着いたという感じがします。

2021年10月27日