ふたり旅(公文健太郎 ✕ 山口誠)

香川 栗林公園

国の特別名勝に指定されている文化財庭園のなかで、最大の広さをもつ回遊式大名庭園。明治維新まで高松藩主松平家の別邸として使用されており、1875年に県立公園として公開されました。借景となっている紫雲山を含めると総面積は約75haあり、その広大な敷地は北庭と南庭に分かれています。南湖に面する茶屋・掬月亭(きくげつてい)から眺める池の風景は一見の価値があります。

聞き手・構成|圓谷真唯

山口 『栗林公園』にはわかりやすい「借景」、あるいは「背景」と言ってもいいような山がすぐそこにあるんですよ。池があって、日本建築が突き出すように建っていて、それを見るための丘のようなものがあって。構図としては有名で、桃源郷のようにも見えます。京都では山がそこはかとなく遠かったので、ここでは距離の近い借景が撮れるかもしれないと思いました。でも、薄々気がついてはいたんですが、単に裏山なのか借景なのか、その差はどこにあるのかというのがわかりづらくて撮影が難しいんですよ。その一方で、公文さんは松が気になっていましたね。

公文 松がどれもかっこいいんですよ。かっこいいなと思って撮っていたら、山口さんは興味がないらしく「有名な松らしいです」くらいのコメントで。もう山口節には慣れてきたんですけどね(笑)。

山口 歩いていると、ちょっとした「隣り合うマチエール」のような要素があるんですよね。そうやってこの掬月亭に着いたら、僕がいままで見たなかでも1、2を争うほど美しい風景が広がっていました。栗林公園にいくと絶対にここからの写真を撮るんですよ。まさにこの座敷に座るか立って、真正面に構えるのがベスト。そうなると、公文さんとしては誰がとっても同じようになる視点場だから難しいわけです。

公文 山口さんが「1、2を争うほどすごい場所ですよ」と言うので期待して行ったんですが、撮りようがなくて。外側にある世界がすごいんですよ。簡素な建築と自然とが一体になっていることがすごいというのはわかりやすかったんですけどね。寄っても引いても桃源郷を捉えられちゃうんですよ。そんな桃源郷のディテールがこの鯉の写真です。何だか夢のなかみたいで、つながっているということが一番感じられたところでした。

山口 池という領域と建物の内部という二つの場所が隣接しているという意味では、「隣り合うマチエール」だと思いました。当初は栗林公園の奥に見える人工的な丘が借景になり得るかもしれないと思っていたのですが、借景か否かがわかりづらくなってしまったんですね。この辺りから、対象に寄った写真というものが増えていきましたよね。領域が隣り合っているということも、公文さんが切り取ってくれました。この頃はもう、行ってみたらきっと何かを発見できるに違いないという、旅のスタンスになっていましたね。

山口 この写真は池に突き出している建物の柱が独立しているように見えますが、そのイメージと松の枝を支える木に類似性があり、似たものが隣り合っているというのを切り取ったものですね。公文さん自身が既に意識をしていることがわかります。

旅の過程で意識が更新されているんですね。

公文 経験値というか、積み重ねでアップデートされていった気がします。自分たち日本人ならではの美意識の発端は、こうした場所にあるのかなと。

山口
ただ、僕はこの写真はとりとめがないと思ってしまうんですよね。目的が見えないということとはやや異なるというか。『桂離宮』で感じた目的の見えなさは明快な目的が見えないという意味で、こちらは結果的に似たものが隣り合っていることによるとりとめのなさ。そういう意味では『浜離宮恩賜庭園』の入り口のカラーコーンに近しい感覚で、公文さんによる発見だと思います。それは僕と公文さんの見方が違うからで、だからこそ毎回おもしろいなと思います。

2021年10月27日